健康経営の取り組み10選!
大企業・中小企業別の取り組み事例を紹介
健康経営を導入することで、従業員の健康増進や働きやすい職場づくりが実現し、結果として企業の生産性向上や採用力の強化、離職率の低下といった効果が期待できます。自社での健康経営の取り組みに活かせるよう、大企業・中小企業それぞれの具体的な成功事例や、実践的なステップを理解しましょう。
健康経営とは?
健康経営とは、従業員の健康を企業経営の重要な資源と捉え、戦略的に健康保持・増進の施策を展開する考え方です。単なる福利厚生ではなく、経営の視点から健康支援を位置づけることで、従業員のモチベーションや生産性の向上、さらには離職率の低下や医療費の抑制にもつながります。また、企業イメージの向上や採用力の強化といった外部への影響も期待でき、持続可能な組織づくりに寄与します。経済産業省もこの取り組みを後押ししており、「健康経営優良法人」制度などの導入も進められています。
企業が健康経営に取り組むべき理由
健康経営は、単に従業員の健康を守るという観点にとどまらず、企業の持続的な成長戦略の一環として注目されています。従業員満足度の向上や離職率の低下に加え、職場の活性化や生産性向上といった効果も期待でき、最終的には業績改善にもつながります。また、働きやすい環境を整えることで企業の魅力が高まり、採用力の強化や人材の定着、さらには社会的信頼の向上といった好循環が生まれます。加えて、健康経営に取り組む姿勢は、ESGやSDGsといったサステナビリティ評価にも好影響を与えるため、今後ますます企業にとって不可欠な経営戦略となるでしょう。
【大企業】健康経営の取り組み事例
味の素株式会社
味の素グループは、「志(パーパス)」を実現する従業員がイキイキと働き、イノベーションを創出できるよう、ウェルビーイングな環境づくりを推進しています。産業保健スタッフによる健康サポート体制を整備し、ストレスチェックやメンタルヘルス対策に加え、健康診断後のフォローアップ、生活習慣改善支援などを実施。これらの施策により、従業員の主体的な健康増進を促し、組織全体の活力向上と生産性の向上を図っています。特に、パフォーマンスの改善、生活習慣病リスク者の重症化予防、職場のエンゲージメント向上といった経営課題への対処において成果が表れており、健康と経営の統合による持続的成長の実現に貢献しています。
オムロンヘルスケア株式会社
オムロンヘルスケア株式会社は、「世界中に健康を届ける企業」として、従業員自身が健康でいきいきと働ける環境づくりを目的に健康経営を推進しています。従業員の健康年齢を見える化し、自社製品による血圧測定や健康管理の促進などを通じ、セルフケアの習慣化を支援。保健師との面談や、医師・産業医との連携により、適切な健康指導も実施しています。その結果、パフォーマンスの改善や生活習慣病リスクの低減といった経営課題に対する効果が確認されています。
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社は、従業員一人ひとりが日々いきいきと健康な状態で働くことで、常に高いパフォーマンスを発揮し、働きがいも高い状態を目指して健康経営に取り組んでいます。ストレスチェックと同時に、飲酒習慣スクリーニングテストやプレゼンティーズムの測定を実施し、従業員の健康課題を可視化。さらに、健康管理システムの導入により、従業員が日常的に健康状態を把握できる環境を整えています。こうした取組により、健康意識と行動変容が促され、組織の活性化や生産性向上につながっています。これらの継続的な施策が評価され、日経SDGs経営調査で2019年から5年連続最高位にランクインするなど、社外からも健康経営の先進的な企業として高く評価されています。
コニカミノルタ株式会社
コニカミノルタ株式会社は、従業員の健康を重要な経営資源と捉え、健康経営に取り組んでいます。プレゼンティーズムの改善を目的に、睡眠の質の向上や運動習慣の定着を支援する運動系介入型プログラムを導入。さらに、メンタルヘルス対策として、定期的にメンタル健康状態を測定し、組織的および個別のフォローを実施しています。科学的根拠に基づくデータの収集と分析を行い、効果的な介入につなげています。これらの取り組みによって、健康意識や従業員パフォーマンスが向上し、2021年には日経スマートワーク経営調査で5星を獲得するなど、社外からも高い評価を受けています。
東京海上日動火災保険株式会社
東京海上日動火災保険株式会社では、最も大切な原動力は社員であり、企業価値向上に向けて社員と家族の健康保持と増進に取り組んでいます。重点課題は女性特有の健康関連課題に関する内容や、従業員の健康問題に伴う生産性の低下、事故発生予防などが主でした。具体的施策としてストレスチェックの全社実施や健康診断の受診率向上に加えて、定期的な健康セミナーの開催や、社員の健康行動を促進する「健康チャレンジ」など、多面的に展開しています。また、健康リスクを早期に把握し対応できる体制整備を進め、従業員の意識変容や行動変容を促進。こうした取り組みの成果によって、社員のパフォーマンス指数や組織のいきいき度の指数が改善されました。
【中小企業】健康経営の取り組み事例
中小企業でも、従業員の健康維持や生産性向上を目的とした先進的な取り組みが数多く見られます。ここでは、地域密着型の工夫や実行可能な施策を通じて成果を上げている企業事例を紹介します。
及川産業株式会社
及川産業株式会社では、体を動かす仕事が多いからこそ、従業員に健康的に長く働いてほしいという社長の考えが元になり、健康経営に積極的に取り組んできました。安全大会の毎月実施など、管理職・従業員向けの教育機会を設定し、健康リテラシーの向上に努めています。また、健康診断受診期間を閑散期に設定するなどの工夫により、定期健康診断の受診率は実質100%を維持。また、同社の健康経営を紹介したパンフレットを見た高校生から実際に求人の申込みがあるなど、採用活動にも効果を上げています。
株式会社丸庭佐藤建設
株式会社丸庭佐藤建設では、元請からの仕事受託に健診受診が求められる建設業の特性から、もともと健康管理に対する意識が高く、健康経営に関心を持ちました。健康づくりは専務取締役と事務職が担当し、トップダウンで推進。特に50代以上の従業員が多いことを踏まえ、全員の業務や希望を聞きながら休暇予定を調整するなど、心身のリフレッシュを重視しています。また、協力会社との交流を目的に「丸友会」を開催し、コミュニケーション促進を図っています。定期健診は評判の良い病院に依頼し、自社で一斉実施する体制を構築。受診率は実質100%を維持しています。これらの取組が評価され、健康経営優良法人として認定され、地域からの関心も高まり、セミナーでの紹介や他団体との連携にもつながっています。
株式会社東京堂
株式会社東京堂は、2015年から従業員の健康管理に取り組んでおり、女性従業員のがん罹患をきっかけに、予防検診や健康づくりの強化を進めてきました。すべての事業場に健康経営の統括者を配置し、社内グループウェアやテレビ会議を通じて全社一体での推進体制を構築。働き方の面では100通り以上のシフト導入や1時間単位の有休取得制度により、多様なライフスタイルへの対応を実現しています。運動促進のためにボート大会や地域イベントへの参加、社内トレーニングルームの設置なども行い、従業員やその家族の健康意識向上を図っています。がん検診や再検査の受診勧奨、禁煙推進なども積極的に取り組み、「禁煙バトン」といった独自の活動も展開。健康経営の取組みが評価され、各方面から取材を受けたほか、商品・サービスの提案力や採用力の強化にもつながっています。
株式会社笠間製本印刷
株式会社笠間製本印刷では、CSR活動の一環として健康経営に取り組んでおり、代表の積極的な関与のもと石川県内でも早期に優良法人認定を目指して推進されてきました。年初に設定した部署ごとの残業時間目標に基づき、成果を賞与に反映させる仕組みを整備。定刻に管理職のパソコンを強制シャットダウンする仕組みやRPAの導入、多能工化教育などを通じて、業務の効率化と残業削減を実現しています。経営層は健康経営に関するセミナーにも参加し、社内で情報を共有。運動促進のため金沢マラソンへの参加やスポーツジムとの法人契約も実施されています。これらの取組により、従業員や応募者からの好評価を得ており、採用活動や働き方改革の一環としても成果が表れています。
ナガオ株式会社
ナガオ株式会社では、長年にわたりワークライフバランスを重視する社風が根づいており、従業員とその家族の心身の健康を支える職場づくりを大切にしています。健康経営の考え方をより広く社内に浸透させることを目的に、健康経営優良法人の認定申請を行いました。2018年からは、健康状態のセルフチェックができるシステムを導入し、血圧や体重などのデータから将来の健康リスクと改善アドバイスを自動で提示。現在では9割以上の従業員が定期的に活用しています。また、「ナガオランナーズ」や地域のソフトボール大会、家族参加型の運動イベントなどを通じて運動習慣の定着を図っています。その結果、離職率は過去10年間で0.5%と低水準を維持し、採用面でも共感を得られる企業として成長を続けています。
健康経営に取り組む際の手順
健康経営を実践するには、組織的に段階を踏んだ取り組みが求められます。ここでは導入から評価まで、効果的に推進するための基本的な手順を紹介します。
STEP1:健康宣言を実施する
健康経営を始める第一歩は、企業としての意思を明確に示す「健康宣言」の発信です。経営陣がトップメッセージとして健康経営への取り組みを明言し、社内外に広く周知することで、従業員の意識変革と社内の一体感を醸成します。また、健康宣言を通じて取引先や地域社会、求職者にも企業姿勢をアピールでき、企業価値の向上にもつながります。健康経営優良法人の認定を目指す場合も、健康宣言は必須のステップとされており、企業としての本気度を示す重要な位置づけとなります。
STEP2:取り組みやすい体制を整える
健康経営を効果的に推進するためには、社内に専任の推進体制を整えることが重要です。具体的には、推進責任者や健康経営担当者を明確に任命し、実行力のある体制を構築します。また、産業医や保健師などの専門家と連携し、施策の専門性を高めることも効果的です。従業員からの意見を吸い上げるためのアンケートやヒアリングの仕組みを整備し、現場の声を反映した実効性の高い取り組みが可能になります。こうした双方向のコミュニケーションが、従業員の納得感と参画意識を高め、健康経営の浸透を促進します。また、従業員の声を反映させる仕組みも大切です。
STEP3:具体的な施策を実行する
推進体制が整ったら、実際の施策に着手します。まずは健康診断やストレスチェックといった基本的な健康管理を徹底したうえで、運動促進や食生活改善、メンタルヘルス対策、禁煙支援など、自社の課題に応じた取り組みを選定して実施します。さらに、健康増進のためのセミナー開催や、セルフケア促進のためのICTツール導入なども有効です。可能であれば、医師や産業保健スタッフ、外部専門家の協力を得て、科学的根拠に基づく施策を設計しましょう。重要なのは一過性のイベントではなく、継続的に取り組むことで従業員の健康習慣を定着させることです。健康診断、ストレスチェック、運動促進、食生活改善など、企業に合った施策を選定・実行します。可能であれば外部専門家の協力も得ましょう。
STEP4:取り組みを評価する
施策を実施した後は、効果を定期的に検証し、改善に活かす評価プロセスが不可欠です。具体的には、健康診断結果やストレスチェックの変化、プレゼンティーズム・アブセンティーズムの改善度、離職率や従業員満足度の推移などを指標として評価します。なお、プレゼンティーズムとは、欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態、アブセンティーズムは健康問題による仕事の欠勤(病欠)を意味します。施策ごとにKPI(重要業績評価指標)を設定することで、定量的な効果測定が可能になります。また、評価結果は経営陣と共有し、次の施策に活かすサイクルを構築しましょう。健康経営優良法人の認定を目指す際にも、このPDCAサイクルの実践が重要とされており、継続的な改善の仕組みを確立することが成功の鍵となります。施策の効果を定期的に評価し、改善点を抽出して継続的な向上を図ります。健康経営優良法人の認定取得も目指すとよいでしょう。
健康経営を成功させるポイント
健康経営の効果を高めるためには、社内の体制づくりや施策の実行力が鍵となります。ここでは成功のための基本ポイントを紹介します。
経営陣が重要性を理解し主導して行う
健康経営の推進には、経営陣の理解と主体的な関与が不可欠です。トップが健康経営の意義を深く理解し、自ら先頭に立って方針を打ち出すことで、社内全体に対するメッセージ性が高まり、従業員の信頼と共感を得ることができます。経営会議や社内報などを活用して継続的に情報を発信することが、社内文化としての定着を促し、健康経営の基盤づくりにつながります。
従業員が必要とする施策を実行する
一方的に決定された施策ではなく、従業員の声やニーズを丁寧に把握したうえで施策を設計・実行することが、健康経営の効果を高める鍵となります。アンケートや面談を通じて実際の課題や希望を把握し、ライフステージや業務特性に合わせた柔軟な施策を展開することで、従業員の参加意欲が高まり、制度の定着と効果の最大化につながります。また、従業員が主体的に関わる環境を整えることで、自らの健康への意識も高まりやすくなります。
医師や健康管理の専門家と連携する
健康経営を効果的に進めるには、医師や保健師、管理栄養士などの専門家と連携することが欠かせません。専門家の知見を取り入れることで、従業員の健康課題に対する的確な分析と、科学的根拠に基づく施策の実施が可能になります。また、メンタルヘルスや生活習慣病予防など、専門的な支援が必要な分野では特に効果的です。信頼性の高いアドバイスを得られることで、従業員の安心感も高まり、施策の受け入れやすさにもつながります。
まとめ
健康経営は、従業員の健康と働きやすさを高めるだけでなく、企業の生産性向上や人材定着、社会的評価の向上にもつながる重要な経営戦略です。実践するには段階的な手順と組織全体の取り組みが求められます。本記事で紹介した事例やステップを参考に、自社に合った形で健康経営を着実に進めていきましょう。
【監修】
佐野 真子
キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
企業のセルフキャリアドック導入及び3000名以上の従業員面談、両立支援に携わる。厚生労働省が進めるキャリア形成・リスキリング事業や就職ガイダンス事業に携わり、キャリアデザインセミナーや面談を実施。キャリコンバンク®事業では、企業顧問及び社外相談窓口を通じて、AI時代の働き方についても企業の事業創造とキャリア形成を支援している。
著書
「現代版キャリア革命:昭和世代のための頑張りすぎない生き方を手に入れる方法」
「ビジネスパーソンのための色彩心理活用術 キャリアカラーセラピー®」