ダイバーシティ経営とは?
女性活躍推進との関係や成功させるポイントを紹介
「もっと企業の競争力を高めたい」
「ダイバーシティ経営は聞いたことがあるけど、何から始めたらよいかわからない」
このような悩みを抱えた企業の人事部の方は多いのではないでしょうか。
ダイバーシティ経営は、現代の顧客の価値観やライフスタイルの多様化に対応するために、企業が積極的に推進すべき取り組みです。
当記事では、ダイバーシティ経営を推進できるように、事例を通して進め方のポイントなどを紹介していきます。これから、ダイバーシティ経営を取り組む人事部の担当者の方はぜひ参考にしてください。
ダイバーシティ経営とは?
ダイバーシティ経営とは、多様性ある人材の能力を活かし、イノベーションと価値創造を生み出す経営手法です。
多様な視点を持つ人材から新たなアイデアを提供してもらうと、働き方や自社商品などの改善につながり、生産性の向上が期待できます。
「多様性」とは、主に以下の要素を指します。
・国籍
・性別
・職歴
・価値観
・障がいの有無 など
さまざまなバックグラウンドを持つ人材が能力を最大限に発揮できるよう、企業はその取り組みを戦略として進めていく必要があります。
ダイバーシティ経営と女性活躍推進の関係
ダイバーシティ経営というと、多くの人が女性活躍推進を思い浮かべますが、実際にはこれもダイバーシティ施策の一つに過ぎません。
まずワークライフバランス(仕事と私生活の調和)を重視し、社員が選べる働き方の環境を整えることから取り組もうとする企業も少なくありませんが、実際には男女間の賃金格差なども解決すべき課題です。
この格差をなくし、平等な待遇を実現することも、ダイバーシティ経営の重要な要素となります。例えば、2023年の賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の平均賃金は男性が350.9千円、女性 262.6千円となっており、依然として格差があると言えます。
もちろん、ダイバーシティ経営は女性活躍推進だけに限りません。さまざまな視点や背景を持つ人材が活躍できる環境を整えることが重要です。しかし、まずは男女間の差別をなくすことがその第一歩となります。これにより、企業全体の活性化や生産性向上が期待できるのです。
ダイバーシティ経営が注目されている理由
女性活躍推進法や障害者雇用促進法などの法整備、各種助成金や認定制度による行政の後押しで、ダイバーシティ経営の推進は一層注目されています。
ダイバーシティ経営が注目されている3つの理由を解説します。すいといえるでしょう。
少子高齢化による人材不足
ダイバーシティ経営が注目されている理由として、少子高齢化による人材不足が背景にあります。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、人手不足が会社経営に影響を及ぼしている企業は全体の7割を超えており、すでに多くの企業が人材不足に陥っていることがわかります。
企業側は、この人材不足を解消するために女性のライフイベントで発生する悩みの理解や、働きやすい環境づくりを整える必要があります。
例えば、女性が活躍できる環境づくりとして、育児や介護との両立支援や女性管理職の登用促進などが挙げられます。女性が働きやすい環境を整えることで、人材確保だけでなく、企業価値も高まるでしょう。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」
顧客の価値観の多様化
インターネットの普及により顧客の価値観やライフスタイルは多様化しています。企業は新たなニーズに対応できるよう、これまでの戦略を変革し、性別、年齢、障がいの有無、国籍を問わない多様な人材の採用を進める必要があります。
ダイバーシティ経営は、多様な人材の活躍を支援する重要な戦略で、企業の成長につながるでしょう。サービスの改善が可能となり、顧客満足度も向上します。今後も変わりうる顧客ニーズに対応するために必要な戦略となるでしょう。
企業の競争力の激化
日本のビジネス環境は、競争が激化しています。近年は市場のグローバル化が進み、海外企業との競争も激化していますが、アジア内では日本が遅れをとっている状況です。
従来の日本企業は、独自の価値観を大切にする経営スタイルが多く見られました。しかし異なる意見を取り入れようとしない組織は、画一的な考えに陥りやすくなる傾向にあります。
競合他社と差異化を図り、企業の競争力を高めるためには、多様な人材によるさまざまな視点での商品の企画や開発が効果的だと言えるでしょう。
ダイバーシティ経営の5つのメリット
ダイバーシティ経営がもたらす5つのメリットを解説します。
人材確保・離職率の低下
ダイバーシティ経営のメリットの一つは、人材確保・離職率の低下です。年齢や性別、障がいの有無に関わらず、さまざまなバックグラウンドを持つ人材を採用することで、優れた人材を確保しやすくなります。
特に、家庭の事情でフルタイム勤務が難しい社員に対して、時短勤務や在宅勤務など柔軟な働き方を提供することで、働きやすい環境を整え、能力の高い人材を引きつけることができます。これにより、離職率の低下も期待できます。
リスク対応力の向上
多様性のない組織では、グループシンキング(集団思考)が起こりやすく、異なる意見を受け入れず、全員が同じ方向に向かおうとする傾向があります。このため、適切な評価や判断が難しくなり、リスクへの対応が遅れることがあります。
ダイバーシティ経営を取り入れることで、多様な価値観が創出し、リスク対応力を向上させます。
また、女性取締役が多い企業は、株価パフォーマンスが高く、金融危機後の回復力が強いというデータもあります。多様な視点を取り入れることで、リスクに対する柔軟で適切な対応ができ、企業の強さを高めることができます。
参考:内閣府男女共同参画局「女性活躍で企業は強くなる」
新しい価値の創出
ダイバーシティ経営を推進し、多様な人材が集まると、異なる視点や意見を交換することで、これまでにない新しいアイデアや視点が生まれます。
このプロセスが、プロダクトイノベーション(商品革新)やプロセスイノベーション(生産工程革新)を促進し、企業に新たな価値を創出することにつながります。
社員のモチベーションの向上
ダイバーシティ経営では、社員のモチベーションの向上も期待できます。企業が多様な人材を尊重し、そのニーズに応じた環境を整えることで、社員が自分の価値を実感しやすくなるからです。
例えば、時短勤務や在宅勤務といった制度を整えることで、家庭と仕事を両立しやすくなり、社員は自分の生活に合った働き方を選択できるようになります。このような配慮がある企業では、社員は「自分を大切にしてくれている」という実感を得やすく、その結果、仕事に対する意欲や責任感が高まります。
企業ブランドの向上
ダイバーシティ経営を取り入れることで、企業ブランドの向上につながる可能性があります。多様性を尊重する姿勢が社会から高く評価されるケースが増えているからです。さらに多様性を持つ人材の新たな視点により、より良い製品を生み出すことができれば、顧客との信頼関係も強化されるでしょう。
例えば、女性の活躍に力を入れた企業は、経済産業省から「なでしこ銘柄」などに選ばれるケースがあります。
こうした認定により、企業の知名度が高まり、採用活動が有利になったり、顧客からの印象がアップしたりする効果があります。
また、誰もが働きやすい環境を整える企業は、社会のニーズに応えていると判断され、社会的な信用も高まるでしょう。
ダイバーシティ経営に取り組む上での課題
ダイバーシティ経営を推進する際は、3つの課題解決に取り組む必要があります。
コストや時間の労力
ダイバーシティ経営を推進するためには、柔軟な働き方を実現するための制度整備が必要です。例えば、在宅勤務やフレックスタイム制度、育児・介護支援制度などを導入することが求められます。しかし、これらの制度を新たに導入したり、見直したりするには時間がかかります。
さらに、制度導入後もその運用を効果的にするためには、評価の仕組みやリソースの確保が必要です。これにより、ダイバーシティ経営を実現するためのコストや時間、労力がかかることになります。
社内での価値観の不一致による衝突
多様な人材を雇用することで、新たな価値観が生まれる一方、社員間で価値観が衝突し、関係が悪化する可能性もあります。
衝突が起こる原因の一つは、無意識に起こる偏見や思い込み(アンコンシャス・バイアス)です。例えば、「男性の方が適任」といった固定概念があると、女性社員は自信を失い、心理的にブレーキをかけられることがあります。
アンコンシャス・バイアスの解消には、社員の意識変革が必須であり、社員が自由に意見を交換できる話しやすい環境作りや、コンシャス・バイアスに関する研修を行う方法があげられます。これにより、固定概念を払拭し、偏見を減らすことができます。
コミュニケーションの希薄化
働き方が多様化し社員の満足度が上がる一方で、テレワークや時短勤務を導入することで、コミュニケーションが希薄化する可能性が考えられます。
テレワークでは、出社し直接会ってコミュニケーションを交わす機会が減少します。さらに、時短勤務者は、勤務終了までに仕事を終わらせることに注力し、周囲の社員とのコミュニケーションが減る傾向があります。
この問題を解消するためには、社内のミーティングスペースの設置や、社内イベントの実施など、多様な人材同士が、円滑なコミュニケーションを図れる取り組みが重要です。
コミュニケーション不足によるすれ違いや誤解は、業務に大きな影響を及ぼす可能性が高いため、社員同士が信頼関係を築けるような環境を整えると良いでしょう。
ダイバーシティ経営に関する経済産業省の取り組み
日本社会の課題である少子高齢化やイノベーションの促進、グローバル化に企業が対応するための、経済産業省での取り組みを3つ紹介します。
優良企業の選定
経済産業省では、女性活躍推進に積極的な企業を選定するために、「なでしこ銘柄」や「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」を発表しています。これらは、性別に関係なく支援を行い、キャリア形成や共働き支援を推進している企業を評価するものです。
なでしこ銘柄に選定されると、経営戦略と紐付いた女性活躍に向けた取り組みが公表され、企業イメージがアップし採用効果も高まります。
経営を実践するための支援ツールの公表
ダイバーシティ経営をこれから始める企業や、実際の取り組み方法に悩む企業に向けて、経済産業省は各種支援ツールを用意しています。
具体的なツールや取り組みは以下の通りです。
- 2024年6月「中小企業のためのダイバーシティ経営」のツールを公表
- 2023年7月「ダイバーシティコンパス」経済社会政策室が目指す姿や指針を整理
- 中小企業を対象に「多様な人材の活躍」の実現に向けた「リーフレット」を作成
- 2021年3月「ダイバーシティ経営診断ツール」ダイバーシティ経営の実践に必要な取り組みを見える化
ツールは、企業の現状の把握ができ、取り組むべき課題の特定に役立ちます。人事管理や組織風土などを見直し、企業でダイバーシティ経営を実現しましょう。
参考:経済産業省 「ダイバーシティ経営の推進」
VRを用いたアンコンシャス・バイアス研修の実施
政府は、VR(バーチャルリアリティ)を用いたアンコンシャス・バイアス研修も実施しています。
この研修では、他人の気持ちや行動を実際に体験することで、異なる視点を理解し、感情的な理解を深めることができます。VRでの擬似体験後は、グループワークを通じて感じたことや、自分が持っていた先入観についてディスカッションします。
ダイバーシティ経営を推進する際は、既存の従業員が多様な価値観を受け入れられるよう、こうした研修を活用していくことが重要です。
ダイバーシティ経営を成功させる5つのポイント
ダイバーシティ経営を成功させるためのポイントをふまえ、取り組みをはじめましょう。
社員が抱える現状の問題を把握する
既存の社員が抱える、キャリア形成に関する不安や要望、職場の人間関係や環境面での課題などを把握しましょう。アンケートや面談を活用し、社員の実際の声を確認します。
これからダイバーシティ経営を始める企業は、新たな取り組みへの考え方も確認してください。社員が抱える問題をリスト化し、その解決策を具体的に示すことが大切です。実際に業務を行っている社員の意見を大切にしながら問題解決に取り組みましょう。
具体的な数値で目標を設定する
ダイバーシティ経営を推進する際は、具体的な目標を設定しておくことが重要です。目標を数値化しておくと、進捗をスムーズに評価できます。
たとえば、「管理職に占める女性比率を18%以上にする」「男性育児休業取得率を100%にする」といった具体的な目標を設定しましょう。
目標を設定する場合には「いつまでに」「どのくらいの数値を達成するのか」を明確にして、細かく計画することがポイントです。
社員からの理解や納得を得る
ダイバーシティ経営推進によって、会社の経営方針や人事や制度を変更する際は、社員に十分な説明を行い、理解を得ましょう。
今後の企業としてのビジョンや、新たな取り組みを行う理由、社員にとってのメリットをしっかりと伝えます。社員が変化を受け入れるには、積極的な関わりや納得できる説明が必要です。
定期的に相談できる環境を設ける
ダイバーシティ経営を推進する際は、社員が定期的に相談できる環境を整えておくことも重要です。上司と面談できる場を設け、社員が気軽に相談できる場を提供しましょう。
中には自分から上司に相談できない社員もいるため、あらかじめ面談の日程を決めておくと、全員が平等に意見を共有できるようになります。
定期的な面談は、社員の不満や悩みを打ち明ける場となります。モチベーションの維持や向上に繋がり、さらには離職の防止にも効果的です。
人事評価を明瞭化しておく
ダイバーシティ経営では、人事評価を明確にしておくことが重要です。評価項目をシンプルにし、明確な評価基準を設けて、社員全員を公平に評価できるようにしましょう。
多様な人材が集まる企業では、共通の評価基準がないと、不公平感が生まれて、社員の不満が高まり、離職につながる可能性もあります。
システムを活用するなど、評価基準を一元化し、定期的な見直しが必要です。
ダイバーシティ経営において女性活躍推進を成功させた事例
ダイバーシティ経営を通じて、女性活躍推進に注力した3つの企業の取り組み内容を紹介します。
株式会社千葉銀行
千葉銀行は、千葉県を中心に展開し、地方銀行のなかでトップクラスの資産規模および収益力を有する銀行です。
株式会社千葉銀行では、2011年に女性職員の意欲向上と能力開発を支援する「女性活躍サポートチーム」を設置し、新たな分野に挑戦する女性などへの個別面談を開始しました。
2014年には、女性活躍サポートチームの取り組みを一層強化するために「ダイバーシティ推進部」を発足し、2023年における全役職員の女性比率が44.4%、リーダー職以上の女性比率が28.4%の結果を出しています。
参考:株式会社千葉銀行「ダイバーシティ推進の取り組みについて」
参考:株式会社千葉銀行「働き方を知る」
総合メディカル株式会社
総合メディカル株式会社は、医療機関専門の問題点を明確にし向き合う経営コンサルティング会社です。
2018年6月に、女性活躍推進法に基づく「えるぼし認定」で最高評価をもらい、2020年3月には「新・ダイバーシティ経営企業100選」を受賞しました。
一般職から総合職(管理職へのキャリアアップも可能な職種)へ転換できる制度を導入しました。今後もさらなる女性活躍のために、女性活躍推進セミナーの実施や、女性リーダー養成研修などを定期的に実施しています。
参考:総合メディカル株式会社「ダイバーシティの推進」
エーザイ株式会社
エーザイ株式会社は、医療用医薬品を中心に研究開発、製造、販売などの事業をグローバルに展開している製薬会社です。
2030年度までの実施プランの計画として、目標・アクションプランを設定しています。
設定目標は、社員や管理職の女性比率は30%以上、男女平等に家庭に参画する意義を浸透させるために男性社員配偶者出産休暇および育児休職5日以上の取得率50%以上です。
参考:エーザイ株式会社「目標・課題・アクション」
ダイバーシティ経営で女性が活躍できる企業づくりを
ダイバーシティ経営の推進が、自社のブランド力を高め、他社との差別化に貢献します。多様な視点から、今後も変化する市場ニーズへ対応しやすくなるでしょう。
特に女性活躍推進は、目標が数値化されやすく、取り組みやすくなっています。ぜひダイバーシティの推進の参考にしてください。
【監修】
佐野 真子
キャリアコンサルティング総研株式会社代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
企業のセルフキャリアドック導入及び3000名以上の従業員面談、両立支援に携わる。厚生労働省が進めるキャリア形成・リスキリング事業や就職ガイダンス事業に携わり、キャリアデザインセミナーや面談を実施。キャリコンバンク®事業では、企業顧問及び社外相談窓口を通じて、AI時代の働き方についても企業の事業創造とキャリア形成を支援している。
著書
「現代版キャリア革命:昭和世代のための頑張りすぎない生き方を手に入れる方法」
「ビジネスパーソンのための色彩心理活用術 キャリアカラーセラピー®」